思い入れのある絵具について語る「絵具がたり」。
2つ目の絵具は土絵具「田原白土」です。
田原白土(たわらはくど)
この土絵具との出会いは京都の有名日本画画材店・エビスヤ画材さん。
ふらり手に取ったこの絵具が、ここ何年かの私の制作を支えてくれています。
土絵具というのは天然の良質な土を精製して作る絵具のこと。
普段、岩絵具や水干絵具を使う私にとってはあまりなじみのないものでした。
土絵具は丁寧に練って溶いても、すこし重くざらりとする、そんなものが多いように思います。
社寺修復の仕事をしていた時に使った経験から、土絵具は少し塗りづらいなぁと感じていたため
とりたて買い求めるような気持ちはありませんでした。
ところが何の気なしに買ったその田原白土を
墨で黒く塗った紙の上に塗ったとき感じたのは「はまった」。
貝殻の粉を原料とする胡粉の、やわらかな白さとも違う。
すべて覆いつくす硬質なチタンの白とも違う。
そのすこしベージュがかった色が、墨の紙の上では「仄かに光る」。
私にはこれ以上ない組み合わせのように思えました。
土絵具ならではの重み、ざらりとした紙へのくいつき、
その細かな硬さ、甘くはない温かさを感じる質感、
墨の黒との対比で仄かに光る色。
そんな田原白土は、私に「月」を思わせる絵具です。
そしてその後描いた「落月」シリーズは、この田原白土なしでは描けないものでした。
落ちる月が描きたくなった日、
それは湧き上がるようなもので田原白土のことが頭にあったわけではありません。
けれどあの月のような絵具で描いたときに、もうその種は蒔かれていたのかもしれないと
今ではそう思います。
絵具が描かせてくれる。
そんな絵もあるということを思わせてくれる絵具です。
田原白土、以前にnoteでも取り上げております。
長文ですが軽めの文体、よろしければご覧ください。
note 巳白(髙井みいるアカウント)