
思い入れのある絵具について語る「絵具がたり」。
今回は岩絵具・象牙黒。
前回の「銀鼠」に続き、京都の老舗「放光堂」さんの逸品です。
象牙黒(ぞうげくろ)
象牙黒。
なんともシックな響きの名前です。
「象牙色」は岩絵具ではおなじみ。
複数のメーカーさんが製造され、人工の岩絵具もあります。
色はその名の通り象の牙、少し黄味よりのあたたかな白系統、アイボリー。
画材店ウエマツさんのオンラインショップでは、原材料に「カーネリアン(黄石灰岩)」と示されています。
その「黒」。
これは放光堂さん特製の絵具です。


ご覧の通り、真っ黒。
これのどこが特別なのか、岩絵具に馴染みのない方にはわかりづらいかもしれません。
象牙黒の特別な点は「細かな番手でも黒い」、これに尽きます。


前回の「銀鼠」でお見せしましたように、岩絵具はその粒の粗さで色味が異なります。

番手が細かくなると明るい色になりますが、象牙黒はどこまでいっても黒い。
細かな黒、それも真っ黒な色が欲しい描き手にとって、夢のような絵具です。

すこし煤のような茶色がかった黒色。
カーボン、チャコール、どこかしっとりとした味わいの絵具。
粒子を感じながらも、特別に軽くこまやか。
その溶き心地もふくめ、他にはない絵具です。
墨の上に、粗い象牙黒をかければ結晶のよう。
粗い岩絵具の隙間に、細かな象牙黒を入れ込めば
「翳」とも呼びたくなるしっとりとした表情。
「絵具作りにかける人の想いがつまった色」
そんなことを感じる特別な黒色です。

