思い入れのある絵具について語る「絵具がたり」。
今回は水干絵具・新橋。
先の個展「みずのあとさき」でも多用しました、なんとも華やかな青い色です。
新橋(しんばし)
「和」のイメージとはすこし遠い、華やかな緑みがかった水色。
化学染料が盛んに使われるようになったことで生まれた、近代の鮮やかな絵具です。
そんな目をひく色に「新橋」という名前が付けられました。
出てきた当時、その色が最も愛されたのは東京・新橋の花街。
そのハイカラな美しさに憧れを込め、人々はこの色を「新橋」と呼んだそうです。
水干絵具は白い粉に色を染め付けて製造されます。
染め付け、乾かされた絵具がうすい板状になっている。
それを量り売りしてもらいます
板状の水干絵具は乳棒と乳鉢でこまかにすりつぶし、
そこに接着液である膠を混ぜて練り上げ、水で溶いて使います。
柔らかな水干絵具であれば、指でつぶし練り上げることもできますが
この新橋は硬い。
よくよくすりつぶしてやらないと、溶き下ろしたときに小さな固まりが残ります。
藍色・紺色など青系の水干絵具は総じてそうで、
いざ画面に塗るまでの手数が少し必要な絵具です。
時として、岩絵具では出せない色があります。
もちろん「腕」の問題もありますが、あの粗い絵具では出せない質感と色、
そんなものもやはりあります。
私が持つ、水や星明りのイメージの1つは
ひんやりとした青色、震えるような青光り。
群青のような厚みのあるものではなくて、澄んだ奥行きのある色。
それを画面に出したい時、手に取ることが多いのはこの新橋です。
鮮やかで華やかだけれど、薄く塗れば澄んでいて
夜にも昼にも、影にも光にもできる。
そんな色を見せてくれます。
その上から岩絵具をかけていくと、
新橋色が見えなくなっていくこともあります。
けれど、少しずつ確かめていくような制作の中で
感覚を喚び起こしてくれる色は案内人のようなもの。
大学でこの水干絵具に出会ったときから
私はこの色を頼りにしています。