
思えば、海の絵を描かないな、と気が付きました。
それは馴染みがないからで
水といえばもっぱら川か湖か、あるいは雨か。
育った町には川がありました。
夏に帰る田舎は山あいの町でした。
両親とも海の近くで育った人ではなく
海は「遊びに行く」、そんな観光の場所でした。

海には縁遠いなと感じています。
そんな私が
これまでで一番「海に行きたい」と思ったのは高校生の頃。
わけもなく日本海に惹かれて、誕生日祝いで友人と舞鶴へ。
その頃は大学も金沢に出ることを考えていました。
住み慣れた京都の町とは違う気候、
潮風に洗濯ひとつとっても苦労するだろうに。
それでも冷たい海のそばで、暮らしてみたいと考えていました。
結局、私は金沢には行けず。
今も日本海へのぼんやりとした憧憬を持ちながら
今後そちらで暮らす可能性は低いように思っています。
それでも、日本海の荒々しくも沈んだ水平線と
その上に広がる紫色のどうしようもない空の色。
それを時折思い返します。
もしも金沢で大学生活を送っていたなら
海の絵をたくさん描いたのかもしれません。
そうならなかった私の中に海はなく
白い川と静かな湖があるばかり。
ただ、その水が行き着くところに
いつか憧れた海景が広がっているのかもしれない。
そんな風にも思いながら
いまだ海を持たない自分を感じています。
